ウォーターサーバーを導入する理由

古代の水道は川や湖の水を都市に引き入れ、そのまま家庭に給水していたが、近代水道になって汚れを除去するためろ過されるようになった。初期の水道では、一八〇〇年代にイギリスで考え出された、緩速ろ過法が使われていた。これは砂利や砂を敷きつめたろ過層に、水をしみ込ませて汚れを除去するもので、圧力をかけず自然の流れを利用するため、流速は一日四~五メートルと、名前通りのゆっくりとろ過する方法。しかし十分に時間をかけてろ過するため、水中の浮遊物や細菌はほとんど除かれ、鉄、マンガン、フェノールといった水をまずくする物質もかなり除くことができる。そのうえ塩素の量も少なくてすむため、ろ過された水は自然のままのおいしい水になる。

緩速ろ過は地上に降った雨が、落ち葉の層や土壌にしみ込み、地層の砂利や岩石によって時間をかけてろ過される仕組みを人工的に行う処理法。処理のための干不ルギーや薬品の必要もなく、環境にやさしい処理技術といえるが、緩速ろ過にも大きな欠点があった。それは流速が遅いため、処理に時間がかかることだ。したがって大量の水を処理するためには、ろ過池の面積を広く取らねばならない。しかも粒の大きさがIミリ程度の砂を約七〇センチの厚さに敷きつめたろ過池は、使っているうちに汚れが砂に付着して、目詰まりを起こして一層流速が落ちてしまう。そこで水を一時止めて、砂を洗って付着した汚れを取らなければならない。広い面積を必要とし、メンテナンスに手間がかかるという問題点があった。

この問題点を解決するために、一八八〇年ごろ米国で急速ろ過法が開発された。この方法は水中の汚れを、硫酸アルミニウムなどの薬品を加えて強制的に沈でんさせ、その上澄みを急速ろ過池を通してきれいにする。流速が一日一〇〇~一五〇メートルと速いため、ろ過池の面積は緩速ろ過法の三〇分の一程度ですむ。しかしその反面、細菌や水をまずくする物質の除去は困難で、殺菌のための塩素や処理効率を高めるための水処理薬品を加える必要があるため、薬臭くなり水の味は一層悪くなる。

一八八七年にイギリスの技術により、日本で初めて横浜に完成した近代水道も、緩速ろ過法によるもので、以後各地にこの方式の水道がつくられた。超高層ビルが林立する新宿新都心一帯が、昔は東京都淀橋浄水場の跡地だったことを、今では知る人は少ない。かつてそこには広大な緩速ろ過池が広がっていた。しかし緩速ろ過では人口の急増による需要増に追いつかなくなり、急速ろ過に切り替えられ、空いた土地はピル用地として転売された。東京以外の大都市も、同じような事情から次々と急速ろ過を導人した。あまり人口増が見込まれない地方都市でも、水道工事会社から「緩速ろ過なんて時代遅れですよ」といわれ、慌てて急速ろ過に替えたところもあり、その流れは全国に広がっていった。

今専門家の間では、省子不で環境にやさしく、しかも細菌や水をまずくする物質まで取り除くことがきる緩速ろ過を見直す動きがあるが、現在の浄水場をまた緩速ろ過に戻すことは難しいだろう。このように水道の水がまずくなった原因を、浄水方式の面から考えてみると、ここにも環境汚染、効率の追求といった現代社会のひずみが、その根底にあることが分かる。